IPoE接続を申し込むとき、プロバイダによって「MAP-E」「DS-Lite」「IPIP」と方式が分かれる。名前だけでは何が違うのか分からない。
結論から言うと、ポート開放をするかどうかで選ぶ。違いはそこに集約される。
結論:3行でまとめると
| 方式 | NATの場所 | ポート開放 |
|---|---|---|
| MAP-E | ユーザ側のルータ | 240個の割当ポートのみ可能 |
| DS-Lite | 事業者側の設備 | 不可 |
| IPIP(固定IP契約) | ユーザ側のルータ | 制限なし |
- ゲームやNASでポートを開けたい → MAP-E
- 閲覧が中心で、ポート開放は不要 → DS-Lite
- Webサーバ公開やVPNをしたい → IPIP(固定IP)
なぜ方式が分かれるのか
IPv4アドレスは枯渇している。そのため IPv4 over IPv6 では、1つのグローバルIPv4アドレスを複数の契約者で共有する仕組みになっている。
この「共有をどこで捌くか」の設計思想の違いが、そのまま方式の違いになる。
- 事業者側でまとめて捌く → DS-Lite
- ユーザ側に配って各自で捌かせる → MAP-E
どちらが優れているという話ではなく、トレードオフの関係にある。
DS-Liteの仕組み
ユーザ宅のルータは、IPv4パケットをIPv6で包んで事業者のAFTR(Address Family Transition Router)という装置へ送るだけ。NAPT(アドレスとポートの変換)はAFTRでまとめて行われる。
メリット
- ルータ側の設定はトンネルの終端だけで済むため、対応機種が多い
- 設定項目が少なく、導入が簡単
デメリット
- グローバルIPv4アドレスがユーザ側に割り当てられないため、ポート開放が一切できない
- 事業者側の設備が混雑すると、その影響を直接受ける
外部から自宅のルータに接続する手段がないので、NASの公開、監視カメラ、VPNサーバの設置はいずれも不可能になる。
MAP-Eの仕組み
グローバルIPv4アドレスがユーザ側のルータに割り当てられる。ただし他の契約者と共有しているため、使えるポート番号が分け合いになる。
メリット
- ポート開放ができる
- NATがユーザ側なので、事業者設備の影響を受けにくい
デメリット
- 使えるポートは240個だけ
- 0〜1023番のWell-knownポートは使えない(80番、443番、25番、22番など)
- ポート計算のロジックが必要で、対応ルータが限られる
「ポート開放できる」とはいえ、Webサーバやメールサーバは立てられない。ここが誤解されやすい。
割り当ては16個の連続した範囲が15セット、合計240個という飛び飛びの配置になる。どの範囲が割り当てられるかは、契約者のIPv6アドレスから決まる。
IPIP(固定IP契約)の仕組み
transix、クロスパス、v6コネクトの固定IP契約で使われる方式。
IPv4アドレスを他のユーザと共有しないため、65,535ポートすべてが使える。PPPoE+固定IPと同じように扱える。
メリット
- ポート開放の制限がない(80番、443番も使える)
- 固定のグローバルIPv4アドレスが手に入る
- 接続元IPによる認証が使える
デメリット
- 月額のオプション料金がかかる
- 対応ルータが必要
比較表
| 項目 | MAP-E | DS-Lite | IPIP(固定IP) |
|---|---|---|---|
| NATを行う場所 | ユーザ側ルータ | 事業者側(AFTR) | ユーザ側ルータ |
| IPv4グローバルアドレス | 共有で割当 | 割当なし | 専用で割当 |
| 使えるポート数 | 240個 | 0個 | 65,535個 |
| 80番・443番 | × | × | ○ |
| ゲームのポート開放 | ○ | × | ○ |
| Webサーバ公開 | × | × | ○ |
| VPNサーバ設置 | × | × | ○ |
| ルータ設定の難易度 | やや複雑 | 簡単 | やや複雑 |
| 事業者設備の影響 | 受けにくい | 受けやすい | 受けにくい |
| 追加料金 | なし | なし | あり |
サービス名と方式の対応
ここが最も混乱しやすい。契約するサービス名からは方式が分からないことが多い。
| サービス名 | 提供事業者 | 方式 |
|---|---|---|
| v6プラス | JPIX(旧JPNE) | MAP-E |
| IPv6オプション | BBIX | MAP-E |
| OCNバーチャルコネクト | NTTコミュニケーションズ | MAP-E |
| ぷららv6エクスプレス | — | MAP-E |
| v6アルファ | — | MAP-E |
| transix | インターネットマルチフィード | DS-Lite(固定IP契約はIPIP) |
| クロスパス | アルテリア・ネットワークス | DS-Lite(固定IP契約はIPIP) |
| v6コネクト | — | DS-Lite(固定IP契約はIPIP) |
transixとクロスパスは「DS-Liteとは別の方式」ではない。可変IP契約ではDS-Lite方式そのもので、IPIPになるのは固定IP契約を選んだときだけ。古い記事ではこの2つを別方式として並べているものが多いが、正確ではない。
速度に違いはあるか
方式による速度差は、ほとんど体感できない。
「IPoEにすると速くなる」と言われるのは、PPPoEの網終端装置という混雑地点を通らなくなるためであって、MAP-EかDS-Liteかで決まる話ではない。
ただし理屈のうえでは差がある。
- DS-Lite … 事業者のAFTRを経由するため、そこが混雑すると影響を受ける
- MAP-E … 自宅のルータでNATするため、事業者設備の混雑の影響は小さい
混雑時間帯の安定性を重視するならMAP-Eがわずかに有利、という程度の差になる。実際には契約するプロバイダの設備状況のほうが影響が大きい。
どっちがいい?用途別の答え
オンラインゲームをする
MAP-E。ポート開放が必要なタイトルでも、ポート番号を選べるものなら対応できる。DS-Liteは開放できないため、NATタイプが厳しくなるゲームでは不利になる。
NASや監視カメラを外から見たい
MAP-E。ただし80番や443番は使えないので、9000番台などの高い番号を割り当てる必要がある。頻繁にアクセスするなら固定IPも検討したい。
Webサーバやメールサーバを公開したい
IPIP(固定IP契約)一択。MAP-EでもDS-Liteでも80番・443番は使えない。
VPNで自宅や社内に接続したい
IPIP(固定IP契約)。接続先のIPアドレスが変わらないことが前提になるため。
閲覧やストリーミングが中心
どちらでもよい。この用途では違いが表に出ない。DS-Liteのほうが対応ルータが多く、設定も簡単なので選びやすい。
自分の回線がどちらか調べる
契約中のサービス名を上の表と照らし合わせるのが最も確実。サービス名が分からない場合の確認手順は別記事にまとめた。
よくある誤解
「MAP-Eならポート開放できる」は半分だけ正しい。
できるのは割り当てられた240個のポートだけ。Webサーバは立てられない。
「DS-Liteのほうが遅い」とは限らない。
事業者設備の影響を受けやすいのは事実だが、実際の速度はプロバイダの設備状況で決まる。
「固定IPはPPPoEでないと使えない」は古い情報。
IPoEのまま固定IPv4を使えるサービスが複数ある。