ネットワークエンジニア研修の4回目です。ここまでの3回は紙とPCだけで進めてきましたが、今回は実際に機器を触る環境を用意します。無料のシミュレータ Packet Tracer を使い、これまでに学んだサブネット・スイッチとVLAN・ルーティングを、自分の手で組んで動かせるようにします。
この回で身につくこと
- 自分のPCだけで動く検証環境を用意できる
- 機器を配置し、配線し、IPアドレスを設定して疎通確認ができる
- パケットが1ホップずつ進む様子を目で追える(シミュレーションモード)
- VLAN・トランク・VLAN間ルーティングを自分で組める
- シミュレータでできることと、できないことの区別がつく
前提/環境
- PC: Windows 11(macOS / Linux 版もあります)
- ツール: Cisco Packet Tracer
- 実機・ライセンス費用は不要。インターネット接続は初回のダウンロード時のみ必要
- 使うアドレス: 192.168.10.0/24、192.168.20.0/24(プライベートアドレス)
ツールの選び方
ツール 費用 動かすもの 向いている用途
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Packet Tracer 無料 Cisco機器の CCNA範囲の学習
シミュレーション 研修・演習
GNS3 無料 実機のOSイメージ 実機に近い挙動の確認
(別途入手が必要)
EVE-NG 無料/有料 各社のOSイメージ 複数ベンダー混在の検証
(別途入手が必要)
Containerlab 無料 コンテナ版のNOS 自動化・CI向け
(Linux/Docker)
中古の実機 数千円〜 本物 物理層・ケーブル・
実機特有の挙動
研修の最初の1台としては Packet Tracer が最適です。理由は3つあります。
- OSイメージを別途用意しなくてよい。GNS3 や EVE-NG は機器のOSイメージが必要で、入手にはライセンスが伴います。
- 動作が軽い。ノートPCで十数台の構成を動かせます。
- パケットの流れを可視化できる。これは実機にもGNS3にもない、学習用ならではの機能です。
逆に、実機と挙動が違う場面や、対応していないコマンドがあります。CCNAの範囲を超えて詳細な検証をする段階になったら、GNS3 や実機に移ります。
Packet Tracer の入手
Packet Tracer は Cisco Networking Academy(netacad.com)から無料で入手できます。アカウントを作り、無料の入門コースに登録するとダウンロードできる、という流れです。
おおまかな手順
1) netacad.com でアカウントを作る(無料)
2) Packet Tracer の入門コースに登録する(無料)
3) ダウンロードページから、自分のOS用のインストーラを取得する
Windows 64bit / macOS / Ubuntu 版がある
4) インストールし、作成したアカウントでサインインして起動する
ダウンロードまでの画面の流れやコース名は変わることがあります。細かい手順は、その時点のサイトの案内に従ってください。起動時にサインインが必要な点と、無償で使える点は変わっていません。
ラボ1: スイッチ1台とPC2台
最初は最小構成です。第2回で学んだスイッチの動作を、自分の目で確認します。
機器を置いて配線する
1) 画面左下のカテゴリから機器を選び、作業領域にドラッグする
Network Devices → Switches → 2960(スイッチ)
End Devices → PC を2台
2) 配線する
ケーブルのアイコン(稲妻マーク)を選ぶと自動で種別を選んでくれる
手動なら Copper Straight-Through(ストレート)を選ぶ
PC0 → Switch0 の FastEthernet0/1
PC1 → Switch0 の FastEthernet0/2
3) リンクの色を確認する
緑の三角 リンクアップ
赤い× リンクダウン(ケーブル種別や shutdown を疑う)
オレンジ スパニングツリーの収束待ち(数十秒で緑になる)
PCにIPアドレスを設定する
PC0 をクリック → Desktop タブ → IP Configuration
IP Address 192.168.10.10
Subnet Mask 255.255.255.0
Default Gateway (このラボでは空欄でよい)
PC1 も同様に
IP Address 192.168.10.20
Subnet Mask 255.255.255.0
ここで第1回の内容が効いてきます。この2台が同じサブネットに居ることを、設定する前に自分で確認してください。192.168.10.10 と 192.168.10.20 は、/24 なら同じ 192.168.10.0 のネットワークです。
疎通確認
PC0 → Desktop タブ → Command Prompt
C:\> ping 192.168.10.20
Pinging 192.168.10.20 with 32 bytes of data:
Request timed out.
Reply from 192.168.10.20: bytes=32 time<1ms TTL=128
Reply from 192.168.10.20: bytes=32 time<1ms TTL=128
Reply from 192.168.10.20: bytes=32 time<1ms TTL=128
1回目だけタイムアウトするのは正常です。ARPで相手のMACアドレスを解決している間に、最初のpingがタイムアウトするためです。第2回で学んだARPの動きが、ここに現れています。
C:\> arp -a
Internet Address Physical Address Type
192.168.10.20 00d0.bcXX.XXXX dynamic
スイッチのMACアドレステーブルを見る
Switch0 をクリック → CLI タブ
Switch> enable
Switch# show mac address-table
Mac Address Table
-------------------------------------------
Vlan Mac Address Type Ports
---- ----------- -------- -----
1 00d0.bcXX.XXXX DYNAMIC Fa0/1
1 0090.21XX.XXXX DYNAMIC Fa0/2
第2回で読み方だけ学んだ出力が、自分で作った構成から出てきます。show mac address-table を打つ前と後で、テーブルがどう変わるかも確認してください(clear mac address-table dynamic で消せます)。
パケットの流れを目で追う
Packet Tracer のいちばんの利点がこれです。
1) 画面右下の「Simulation」に切り替える
2) 「Edit Filters」で表示するプロトコルを絞る
最初は ICMP と ARP だけにする
(すべて表示すると、他の通信に埋もれて追えない)
3) 封筒アイコン(Add Simple PDU)で PC0 → PC1 を指定する
4) 「Capture / Forward」ボタンを1回ずつ押す
封筒が1ホップずつ進む
封筒をクリックすると、そのフレームの中身が見える
最初に流れるのは ARP
PC0 → ブロードキャスト(宛先MAC ffff.ffff.ffff)
「192.168.10.20 の持ち主は誰?」
スイッチが全ポートにフラッディング
PC1 が応答(ユニキャスト)
「それは私。MACは 0090.21XX.XXXX」
そのあとに ICMP(ping)が流れる
宛先MACが PC1 のものに変わっている
封筒をクリックすると、OSI各層のヘッダが分解して表示されます。第2回で図にした「宛先MAC・送信元MAC・タイプ」の並びが、そのまま実物として見られます。ここは時間をかけて観察してください。
ラボ2: VLANとトランク
第2回の内容を組みます。スイッチ2台、PC4台の構成です。
構成
PC0 (192.168.10.10) ─ Fa0/1 ┐
SW1 ─ Gi0/1 ===トランク=== Gi0/1 ─ SW2
PC1 (192.168.20.10) ─ Fa0/2 ┘ │
Fa0/1 ─ PC2 (192.168.10.20)
Fa0/2 ─ PC3 (192.168.20.20)
VLAN 10 → 192.168.10.0/24(PC0、PC2)
VLAN 20 → 192.168.20.0/24(PC1、PC3)
SW1 の設定(SW2 も同じ内容を投入する)
Switch> enable
Switch# configure terminal
Switch(config)# hostname SW1
SW1(config)# vlan 10
SW1(config-vlan)# name Gyomu
SW1(config-vlan)# exit
SW1(config)# vlan 20
SW1(config-vlan)# name Musen
SW1(config-vlan)# exit
SW1(config)# interface FastEthernet0/1
SW1(config-if)# switchport mode access
SW1(config-if)# switchport access vlan 10
SW1(config-if)# exit
SW1(config)# interface FastEthernet0/2
SW1(config-if)# switchport mode access
SW1(config-if)# switchport access vlan 20
SW1(config-if)# exit
SW1(config)# interface GigabitEthernet0/1
SW1(config-if)# switchport mode trunk
SW1(config-if)# switchport trunk allowed vlan 10,20
SW1(config-if)# end
SW1# copy running-config startup-config
確認するのは次の3点です。
SW1# show vlan brief ← ポートが正しいVLANに入っているか
SW1# show interfaces trunk ← トランクが張れて、10と20が通っているか
SW1# show mac address-table ← VLANごとに学習されているか
そのうえで、PCから互いにpingします。
PC0 (VLAN10) → PC2 (VLAN10) 通る 同じVLAN・同じサブネット
PC1 (VLAN20) → PC3 (VLAN20) 通る 同じVLAN・同じサブネット
PC0 (VLAN10) → PC1 (VLAN20) 通らない ← 今はこれが正解
最後の1つが通らないことを、必ず自分で確かめてください。「VLANを分けたから通信できない」という第2回の結論が、実際に再現されます。
ラボ3: VLAN間ルーティング
第3回の内容で、ラボ2の「通らない」を解決します。ここではL3スイッチを使う方法で組みます。
SW1 を 3560(L3スイッチ)に置き換えて設定する
SW1(config)# ip routing ← 忘れやすい
SW1(config)# interface Vlan10
SW1(config-if)# ip address 192.168.10.1 255.255.255.0
SW1(config-if)# no shutdown
SW1(config-if)# exit
SW1(config)# interface Vlan20
SW1(config-if)# ip address 192.168.20.1 255.255.255.0
SW1(config-if)# no shutdown
SW1(config-if)# end
SW1# show ip route
C 192.168.10.0/24 is directly connected, Vlan10
C 192.168.20.0/24 is directly connected, Vlan20
そして各PCにデフォルトゲートウェイを設定します。ここを忘れると、ルータを用意しても通信できません。
PC0 (VLAN10) Default Gateway 192.168.10.1
PC1 (VLAN20) Default Gateway 192.168.20.1
PC2 (VLAN10) Default Gateway 192.168.10.1
PC3 (VLAN20) Default Gateway 192.168.20.1
設定後、PC0 → PC1 の ping が通るようになる
シミュレーションモードで PC0 → PC1 を流すと、パケットがL3スイッチを経由し、宛先MACアドレスが途中で書き換わるのが見えます。第3回の「IPアドレス=最終目的地、MACアドレス=次に渡す相手」が、ここで実物として確認できます。
演習問題
今回は手を動かす課題です。Packet Tracer 上で構成を作り、動作を確認してください。
- ラボ1を作り、PC0 から PC1 へ ping を通せ。1回目がタイムアウトする理由を説明せよ。
- ラボ1で
clear mac address-table dynamicを実行した直後に ping を流し、シミュレーションモードでフラッディングが起きることを確認せよ。 - ラボ2を作り、同じVLANのPC同士は通信でき、違うVLANのPC同士は通信できないことを確認せよ。
- ラボ2で、SW2 側のトランクの許可VLANから 20 を削除せよ。どのPC間の通信が止まるか、実行前に予想してから試せ。
- ラボ3を作り、すべてのPCが互いに通信できるようにせよ。
- ラボ3で、PC0 のデフォルトゲートウェイだけを消したらどうなるか。PC0→PC1 と PC1→PC0 の両方向で試せ。
- ラボ3の構成で、PC0 に
192.168.10.1(ゲートウェイと同じアドレス)を設定したらどうなるか確認せよ。 - スイッチに
copy running-config startup-configを実行せずに、機器の電源を入れ直したらどうなるか確認せよ。
解答と解説
1. ARPでMACアドレスを解決している間に、最初のICMPがタイムアウトするため。
ARPが完了した2回目以降は応答が返る。
2回目以降も落ちるなら、それはARPではなく別の問題。
2. テーブルを消すと、スイッチは宛先MACを知らない状態に戻る。
そのため受信ポート以外の全ポートへフラッディングする。
相手が応答した時点で再び学習され、次からは該当ポートだけに送られる。
3. 同じVLAN同士は通り、別VLAN同士は通らない。
PC0 と PC1 は物理的には同じスイッチにつながっているが、
VLANが違う=別のブロードキャストドメイン=別サブネットのため。
4. PC1 (VLAN20) ─ PC3 (VLAN20) 間の通信が止まる。
VLAN10 の通信(PC0 ─ PC2)は影響を受けない。
show interfaces trunk の「Vlans allowed」から 20 が消えていることを確認する。
5. L3スイッチに ip routing と2つのSVI、各PCにデフォルトゲートウェイ。
この3つが揃って初めて通信できる。
6. PC0 から PC1 への ping は失敗する(送信できない)。
一方、PC1 から PC0 への ping は「行きは届くが応答が返せない」ため
やはり失敗する。
→ 第3回の「ルーティングは往復で成立する」の実例。
7. アドレスの重複になる。ゲートウェイと同じIPを持つ機器が2台ある状態で、
通信が不安定になるか、まったく通らなくなる。
ネットワークアドレス・ブロードキャストアドレスに加えて、
「すでに使われているアドレス」も割り当ててはいけない。
8. 設定がすべて消え、初期状態で起動する。
running-config(動作中の設定)は揮発性で、
startup-config(起動時に読む設定)に保存しないと残らない。
現場でのつまずき方
保存を忘れる
running-config 今動いている設定。電源を切ると消える
startup-config 起動時に読み込む設定。NVRAMに保存される
SW1# copy running-config startup-config
SW1# write memory ← 同じ意味の短い書き方
SW1# show startup-config ← 保存されているか確認
実機でも同じです。作業後に保存を忘れ、次の再起動で設定が消えるという事故は現場でも起きます。設定変更のたびに保存する習慣を、練習段階から付けてください。
ルータのインタフェースが上がらない
スイッチのポート 既定で有効(つなげば上がる)
ルータのポート 既定で shutdown(no shutdown が必要)
R1(config)# interface GigabitEthernet0/0
R1(config-if)# ip address 192.168.10.1 255.255.255.0
R1(config-if)# no shutdown ← これが必要
「IPアドレスを設定したのに経路表に載らない」という場合、まずこれを疑います。show ip interface brief で administratively down と出ていれば no shutdown 忘れです。
PCのゲートウェイを設定していない
機器側の設定を完璧にしても、PC側のデフォルトゲートウェイが空欄なら別サブネットへは出られません。ラボでも実務でも、L3の設定が終わったら端末側の設定まで含めて確認します。
シミュレーションモードで何も見えない
フィルタで対象のプロトコルが除外されていると、パケットを流しても画面に出てきません。Edit Filters で ICMP と ARP が有効になっているかを確認します。逆に、すべてのプロトコルを表示すると、他の通信に紛れて追えなくなります。見たいものだけを表示するのがコツです。
シミュレータと実機の違いを意識する
Packet Tracer で気を付ける点
・対応していないコマンドがある
実機で使えるオプションが、シミュレータでは通らないことがある
・実機特有の挙動は再現されない
ケーブル不良、光レベルの低下、SFPの相性、機器の負荷など
・タイミングが実機と異なる
収束時間やタイムアウトの体感が違う
・バージョンが古い
最新のOSの機能や構文には追随していない
シミュレータは「設定と論理構成を学ぶ道具」です。物理層のトラブルや実機固有の挙動は学べません。CCNAの範囲を一通り終えたら、GNS3や中古の実機に進み、実機でしか起きない事象に触れてください。
作った構成を残す
Packet Tracer のファイルは .pkt 形式で保存できます。ラボごとに名前を付けて残しておくと、あとから設定を見返せますし、壊れたときに戻せます。「動いた状態」を保存してから設定を壊す、というのが検証の基本です。壊してから直す練習は、実務の障害対応そのものになります。