VPNを張りたい、Webサーバを公開したい、拠点間で通信したい。こうした用途では固定のグローバルIPv4アドレスが必要になる。
以前は「固定IPが欲しければPPPoE」だったが、現在はIPoE接続のまま固定IPv4を使えるサービスが複数ある。PPPoEの速度低下を避けつつ固定IPが使えるため、選ばない理由がほとんどない。
なぜ通常のIPoEでは固定IPにならないのか
IPv4アドレスは枯渇しているため、IPoEのIPv4 over IPv6では1つのグローバルIPv4アドレスを複数の契約者で共有している。
- DS-Lite:グローバルIPv4アドレスは事業者側にあり、ユーザのルータには割り当てられない
- MAP-E:ユーザのルータに割り当てられるが共有のため、使えるポートが240個に制限される
どちらも「自分専用のIPv4アドレス」ではないため、外部から特定のポートで受けることに制限がかかる。
固定IP契約はこの共有をやめ、契約者に専用のIPv4アドレスを1つ以上割り当てるサービスになる。
固定IPにすると何ができるようになるか
| できること | 可変IP | 固定IP |
|---|---|---|
| Webサーバの公開(80番/443番) | × | ○ |
| VPNサーバの設置 | × | ○ |
| メールサーバの運用 | × | ○ |
| NAS・監視カメラの外部公開 | △(MAP-Eで割当ポートのみ) | ○ |
| 接続元IPアドレスによる認証 | × | ○ |
| SSHで自宅・社内へ接続 | △ | ○ |
| 使用できるポート数 | 240個(MAP-E) | 65,535個すべて |
「接続元IPアドレスによる認証」は見落とされやすいが実務では重要で、取引先のシステムやクラウドサービスに「このIPからのみ接続を許可」という設定をしてもらう場合、固定IPが必須になる。
主なサービスと方式
| サービス | 提供事業者 | 方式 | 固定IP数 |
|---|---|---|---|
| transix 固定IP | インターネットマルチフィード | IPIP | 1 / 8 / 16 |
| クロスパス 固定IP | アルテリア・ネットワークス | IPIP | 1 / 8 / 16 |
| v6コネクト 固定IP | — | IPIP | 1 など |
| v6プラス 固定IPサービス | JPIX(旧JPNE) | MAP-E系 | 1 / 8 / 16 / 32 / 64 |
| OCNバーチャルコネクト 固定IP1 | NTTコミュニケーションズ | MAP-E系 | 1 |
IPアドレスを多数必要とする場合はv6プラス固定IPが有力。32個や64個のプランを持つのはv6プラスだけになる。1個でよいなら、どのサービスでも大きな差はない。
これらは基本的に「VNE事業者が提供する仕組み」であり、実際に契約するのは各プロバイダ(ISP)になる。同じtransix固定IPでも、扱うプロバイダによって月額料金や初期費用が異なる。
選び方
1. まず対応ルータを確認する
固定IP契約には対応ルータが必須。ここが最大の落とし穴になる。
- ホームゲートウェイ(HGW)単体では利用できないサービスが多い
- 方式が「IPIP」か「MAP-E」かでルータ側の設定項目が変わる
- 市販のWi-Fiルータでも対応機種はあるが、機種ごとに可否が分かれる
ヤマハのRTX/NVRシリーズやUTXシリーズは各方式の設定手順が公開されており、業務用途では選びやすい。市販機ではI-O DATAやNECの一部機種が対応している。
契約前に、使いたいルータがそのサービスに対応しているか必ず確認すること。「IPv4 over IPv6(IPIP)」の設定項目があるかどうかが目安になる。
2. 必要なIPアドレス数を決める
1個で足りるケースがほとんど。複数拠点それぞれに割り当てたい、サービスごとにIPを分けたいといった要件がなければ1個でよい。
3. 月額料金を比較する
固定IPはオプション料金がかかる。プロバイダによって設定が違うため、契約先の料金表を確認する。IPアドレス数が増えるほど料金は上がる。
注意点
IPv6アドレスは「半固定」であることが多い。
固定IP契約でもIPv4が固定されるだけで、IPv6側のプレフィックスはNTT局舎の工事などで変わる可能性がある。IPv6アドレスを固定前提で設計しないほうがよい。
ひかり電話契約の有無で構成が変わる。
ひかり電話ありの場合はHGWが入るため、その配下にルータを設置する構成になる。IPv6アドレスの割り当て方式(RA方式かDHCPv6-PD方式か)も変わるので、設定手順を確認すること。
固定IP契約でDS-Lite接続が無効になる場合がある。
transixでは固定IPオプション利用時にDS-Lite接続を無効にできる。どちらの経路でIPv4通信するかを意識して設定する必要がある。
PPPoE固定IPとの比較
| 項目 | PPPoE + 固定IP | IPoE + 固定IP |
|---|---|---|
| 速度 | 網終端装置の混雑で低下しやすい | 混雑地点を通らない |
| 夜間の速度低下 | 起きやすい | 起きにくい |
| 固定IPv4 | ○ | ○ |
| ポート開放 | 制限なし | 制限なし |
| 対応ルータ | ほぼ全機種 | 対応機種が限られる |
対応ルータさえ用意できれば、IPoE固定IPを選ばない理由は少ない。既存のPPPoE固定IP環境から移行する価値は十分にある。